ロックバンド BUCK-TICK(バクチク)の23作目となるニューアルバム『スブロサ SUBROSA』 が、ついに本日2024年12月4日リリースとなった。本作は、単なる新作以上の意味を持つ作品だ。昨年2023年10月19日にボーカル・櫻井敦司さんが亡くなって以来、新体制となって初のアルバムであり、特別な意味を持っている。BUCK-TICKの象徴的な存在であった櫻井さん亡き後、どのようなバンド構成になるのか、どんなサウンドになるのか、多くの方々が注目していたと思う。私にとっても地元の先輩でもあり、高校時代以来ずっと聴いてきた大好きなバンド。このリリース日を心待ちにしていた。
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まずはタイトルの「SUBROSA(スブロサ)」という言葉について。日本で暮らしているとあまり聞かない言葉かもしれないが、なんとなくカッコいい。今井寿さんが好きそうな響きだ。「SUBROSA」の意味は、ラテン語で「薔薇(バラ)の下で」を意味し、「秘密裏に、内緒で」という意味合い。実は、薔薇は秘密の象徴。「SUB」は「SUBMARINE」という単語にもあるように、「下」を表す。「SUB(下) + ROSA(薔薇)」は、「薔薇の下」。薔薇は秘密の象徴でも有るので、「秘密裏に」という意味になります。読み方は、ラテン語では「サブローザ」が正式かもしれません。
収録楽曲は、全17曲。櫻井さんの件があって以降、大変な時期にもかかわらず17曲も揃えてきたことに感動しました。制作者の内訳を見てみると、今井寿さん比率が高いですね。初期のBUCK∞TICKは、ほとんど今井さんが作っていたので、その頃に近いかなという印象。
・今井寿 作詞・作曲:13曲(内 インスト3曲)
・星野英彦 作詞・作曲:2曲
・今井寿 作詞・星野英彦 作曲:2曲
早速、私は昨夜から聴いておりますが、期待値を大幅に越える充実ぶり。昨夜寝る前に聴いて感動し、今朝もヘビロテしております。「最新が最高だ」と思える作品。
私が各楽曲を聴いてみた感想を下記にて記載してみます。
01. 百万那由多ノ塵SCUM
(作詞・作曲:今井寿)
ファンの注目が集まる1曲目。今井さんはインタビューで「この曲が絶対1曲目がいい!」と思ったことを語っています。星野さんは「1曲目はスブロサ SUBROSAがいい」と主張していたようですがw、今井さんの意見が通ったようです。
聴いた瞬間、新たな発見がありました。「今井さんは こういう歌い方もできるんだ」と。今井さんといえば、「Sid Vicious ON THE BEACH」のような歌い方がトレードマークだと思ってきたので、新鮮。感動的なバラード。
ちなみに、タイトルの「百万那由多ノ塵SCUM」って何を意味しているんですかね?読み方は「ひゃくまんなゆたのちりすかむ」。今井さんによると「人類創世以来の人間の命」だそうですが、見慣れない言葉の印象を受けるのは「那由多(なゆた)」が入っているからかも。仏教用語で非常に大きな数を表す言葉だそうで、「百万 + 那由多」なわけですから、膨大な数字ですよねw この言葉に続く「塵」も「SCUM」も、塵とかカスの意味合い。「天文学的な数の塵たち」… まあ、これが今井さん風に言うと、「人類創世以来の人間の命」なんですかね。なんとなく、わかる気もしますw
「俺たちは独りじゃない」という歌詞に勇気づけられますよね。櫻井さん亡き後、BUCK-TICKのメンバーもファンも独りではなく繋がっている。
02. スブロサ SUBROSA
(作詞・ 作曲:今井寿)
アルバムタイトルナンバー。歌詞にも「薔薇の下」という意味が登場。
今井さんのラップが印象的。今までの今井さんらしい歌声って、この曲に表れてますよね。
実にノリが良くて、私は大好きです。踊りだしたくなるGROOVE。
「夢物語の実行犯」「明るい未来の確信犯」という歌詞が印象的。
星野さんはこの曲をアルバム1曲目にしたかったようですが、これが1曲目バージョンもアリかもですね。
ユータさんは、今井さんがこの楽曲のデモを前回のアルバムで提出されていたことも明かしています。以前から温めていた楽曲なんですね。
03. 夢遊猫 SLEEP WALK
(作詞・作曲:今井寿)
夢遊猫、読み方は「むゆうねこ」かと思いましたが、正式には「むゆうびょう」のようですね。
「猫」といえば、BUCK-TICKファンの方ならすぐに思いつくと思います。そう、猫好きで知られていた櫻井敦司さん。あっちゃんを想いながら聴きました。
今井さんはインタビューで「量子力学の話」と語っています。現実の物質の世界に限定されない思考。あっちゃんが量子の世界に行き、”夢遊猫”として散歩しているイメージでしょうか。現実世界と天国の世界(?)は繋がっていて、今井さん達もファンも一緒に夜の散歩を楽しんでいる。All night long、一晩中。開放感溢れる曲調で、つい口ずさみたくなる曲ですよね。
All night long(オールナイトローング)の部分で、最後の「g(グッ)」のところが強調されていて気になるw あっちゃんぽい声でもある。
04. From Now On
(作詞・作曲: 星野英彦)
星野さんが手掛けた楽曲。
「from now on」、意味は「これからずっと」「今後は」。「Just the beginning」「Don’t worry」という歌詞に前向きに歩みだした姿勢が感じられます。
全編英語の歌詞。星野さんのボーカルのかっこよさが際立ちますね。
曲調は、ユータさんのベースが曲を引っ張っていて、ダンサブルな楽曲。以前の楽曲「六月の沖縄」っぽさも感じました。
05. Rezisto
(作詞・作曲:今井寿)
歌詞がグロテスクですが、「豚の◯◯をまきちらすのは彼の声」の”彼”とは、今井さんも大きな影響を受けた、スターリンの遠藤ミチロウさんのこと。
機械的な音にラップ調の今井さんの歌のAメロの後に登場するBメロが実に美しい。
06. 神経質な階段
(作曲: 今井寿)
心がないはずの階段が神経質とは… シュルレアリスム的な表現でしょうか?
シンセサウンドの後に登場するベース音が印象的。ユータさんの発案だそう。
07. 雷神 風神 – レゾナンス #rising
(作詞・作曲:今井寿)
先行してシングルリリースされていた楽曲。
前回の記事にて先に書いたように、私は最初に聞いた時、全編 今井さんが歌っていると思ったんですね。ただ、繰り返し聴くうちに、「途中から星野さんだ!」と気づきました。
曲調は明るく、聴いている人を励まし、鼓舞する感じが伝わってきます。1990年に発売されたBUCK-TICKのアルバム「惡の華」の1曲目「NATIONAL MEDIA BOYS」を聴いた時の感覚に似ているな、と私は感じました。あのアルバム発売の前年、今井さんが捕まり、私は「BUCK-TICKはもう解散してしまうのか」と悲観にくれていたものですが、アルバムが発売され、ポジティブでノリノリな1曲目を聴いてすごく嬉しかったのを覚えています。歌詞にも「夢は終わらない」という言葉もあり、「続けてくれるんんだ」と安心たものです。夢はまだ終わらなかった。そして、今回も続けてくれました。
あと、タイトルの「雷神風神」に関して、「風神雷神ではないのか?」と思った方も多かったのではないでしょうか?一般的には「風神雷神」と表記されますよね。ただ、”雷”が最初にきた方がインパクトがあって、BUCK-TICKらしくていいかも。それと、我々の地元・群馬の名物「上毛かるた」の影響もあるかもしれません。群馬県出身者なら誰しも子供の頃に行うカルタ「上毛かるた」。この中に「雷と空風 義理人情(らいとからっかぜ ぎりにんじょう)」という札があるのです。順番が「雷」「風」w
群馬出身の今井さんも、きっと子供の頃に「上毛かるた」をやったことでしょう。この札にあるように、群馬は夏は雷が多く、冬は強いからっ風が吹きつける。このような厳しい風土の中で育まれる「義理人情」。群馬県人は昔から「義理人情にあつい」と言われてきました。群馬出身のBUCK-TICKはクールに見えますが、その根幹にあるのは「義理人情」であるようにも感じられます。こうして仲間でバンドを続けてくれているにもその気質の影響があるかも。
08. 冥王星で◯ね
(作詞・作曲:今井寿)
アフロビートが印象的な楽曲。2009年リリースのアルバム「Memento Mori」のタイトルナンバーを思い出します。今井さんが「ガ ガ ガ …」と歌う箇所も「Memento Mori」を思い出させてくれます。よく考えてみると、楽曲のテーマも「生と死」を歌っており、近いものがありますよね。
09. 遊星通信
(作詞・作曲: 今井寿)
歌詞に出てくる「コズミックギター、プラネットギター、スペイシーベース、ビッグバンドラム」ってBUCK-TICKメンバーのことであり、自己紹介ソング的な内容になってますね。
BUCK-TICK自体が遊星のように空間を浮遊する存在でもあり、実にファンタジーな内容ですね。侘び寂びが感じられる今井さんの歌もいい。
10. paradeno mori
(作詞・作曲: 星野英彦)
星野さんが手掛けた楽曲。タイトルに「mori」が入っているので、一瞬「Memento Mori」を思い出しましたが、この楽曲はストレートに「パレードの森」と読むのでしょうね。
星野さんのボーカル全開。「そっちの風はどうだい」と呼びかける歌詞は、あっちゃんに呼びかけているように感じます。
「独壇場beauty」を思い出しますね。
11. ストレリチア
(作曲: 今井寿)
シタールの音色が中近東の不思議な感覚を想起させてくれます。昔、THE ROLLING STONESのブライアン・ジョーンズが弾いていた音色を思い出しました。
ストレリチアとは観葉植物で、花は日本名で「極楽鳥花」と呼ばれています。この楽曲のイメージですよね。華やかな色合いの花なので、情熱的な恋の感情をイメージさせ、「輝かしい未来」「気取った恋」などの花言葉があるようです。
南国のリゾートで聴きたいです。
12. 絶望という名の君へ
(作詞:今井寿 / 作曲:星野英彦)
実に美しいメロディーの楽曲。
星野さんが先に曲を書き、今井さんに「グッとくるやつを書いてくれ」とだけ言って依頼してできあがったそうです。あうんの呼吸でこれほどの名曲ができるとは、さすが。ちなみに、星野さんが作曲した曲に今井さんが歌詞を書くのは、本作が初。
星野さんのボーカルが、一瞬「櫻井さんかな」と思えてくる場面もあり、ドキっとしました。
13. TIKI TIKI BOOM
(作詞・作曲:今井寿)
冒頭のギターが、かつての名曲「唄」も思い出させてくれる。
今井さんのラップが全開なのに加えて、ユータさんのベースがうねっていてグルーブを生み出してますね。
14. プシュケー – PSYCHE –
(作詞: 今井寿 / 作曲: 星野英彦)
この楽曲は、12曲目の「絶望という名の君へ」と同様、星野さんが曲を作った後、今井さんに作詞を依頼した楽曲。
星野さんのボーカルが冴えている上に、クライマックスでの今井さんのギターの音色が実に美しく、感動的ですよね。私自身、大好きです。
ギリシャ神話をモチーフ
15. ガブリエルのラッパ
(作詞・作曲:今井寿)
今井さんらしさが表れた哲学的な歌詞。「ガブリエルのラッパ」とは、末広がりに大きくなっていく形態の有名なもので、有限と無限が結び付いている状況を表しているとも言われます。
また、キリスト教では「大天使ガブリエルが最後の審判のときにラッパを吹き鳴らし、死者を蘇らせる」という意味もあるため、今井さんが櫻井さんを蘇らせようとしているのかな、とも想像しながら聴きました。
曲調としては、楽曲を通してほぼ1つのコードで構成されていますが、ここまでドラマティックな展開になるのは、BUCK-TICKならではでしょう。
16. 海月
(作曲:今井寿)
今井さんによると、なんとなく海月(クラゲ)が思い浮かんで作った楽曲だそう。レコーディング中にジター(ツィター)というギターのカタチをした鍵盤楽器のような楽器が届き、活用しているそうです。
アルバムのクライマックス突入前の静けさを演出していますね。
17. 黄昏のハウリング
(作詞・作曲:今井寿)
ヤガミトールさんが「これは名曲」と絶賛する楽曲。「これがアルバムのラスト曲になるかも」と思ったそうで、確かに雰囲気がピッタリですよね。ドラマのエンディングソングにも合いそう。
この楽曲にも歌詞に「薔薇の下」というタイトルが出てきますね。
SUBROSA
実に素晴らしいアルバムでした。地元の今井商店時代からBUCK-TICKを尊敬している私ですが、このアルバムも人生のトピックスの一つになることは間違いなさそうです。
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